深度 、急速潜行~
[日々のいとまに]100118 ~インフルエンザ 21 世紀~
▼瀬名秀明「インフルエンザ 21 世紀」読了。(文春新書)
 現時点でほぼパーフェクトな一冊だと思います。
 っつーかマジスゲェ。これが薬学者にして小説書きであるということか! 正しく、かつ、臨場感がとんでもねぇ。いや、前半に登場する先生はだいたい知ってる人だったりするので、「押谷仁先生の声は脳内で CV: 押谷仁で再生される」的にオレが勝手に盛り上がってるだけかと思ってましたが、知らない先生のセリフだろうと、見たこともない場所、時間で起こったことも同じくらいの迫力でありまして。って、そりゃ小説なら当ったり前じゃん、ってなコトですが、それだけの表現を、本職の親父さんの監修も受けて、理系の専門的訓練を積んだバックグラウンドをもってきちんと裏打ちして、バランス取って書き出してる「両方」っぷりが素晴らしいです。
 専門的に正しい話を素直に書いてしまうと、専門じゃない人にはさっぱりわからず、専門じゃない人にわかるように書こうとすると正しさがかなり怪しくなってくるってのは、専門的な話題を語る際に、多かれ少なかれ、つきまとう苦労ではありますが、本書はその点についてもやはりさすがは「専門的なバックグラウンドも持つ小説書き」といった感じで、サイエンスなフィクション(必ずしも so called SF を指しません)の世界に引っ張っていく描写のようにすんなりと、専門じゃない人を現実の専門世界に正しく引っ張り込んでくれてると感じます。ま、オレ自身はどっちかっつーと専門な人に寄ってるのであまりフラットに見れてはいないかもですが、オレ自身、非専門の方にいろいろと教えさせていただく機会を何度か持った経験はありまして、そういうときに苦労したこととかを思い出してみると「上手ぇなぁ……」と感嘆した次第です。
 立ち位置というか、それぞれそう違った方角を指しているはずはないのに必ずしもぴたりと一致はしない情報、思想、信念、立場その他もろもろを、自身もサイエンティストである(サイエンティストのクラスレベルを持っている)ことを静かに感じさせるスタンスでもってバランシングしてて、こちらも同じようにバランスをもって眺められる視座を手に入れられ(たような気にな)る名著でございました。で、そんくらい、云ってみれば引いた立ち位置で書いてるにもかかわらず、現場の迫力もくっきりと描き出してるって意味でのバランスも絶妙。
 ……なーんてな、素直に「専門が近い人、そっち関連に完全に素人な人を問わずオススメ」って書いて終わりにしたほうがイイんだとは思うんだけどさー。オレ自身、小説を書くかどうかはともかく、薬学出で、上述もしたとおり感染症関係の広報的なコトをやってて、そういう仕事が今後もあればいいなぁと思ってる身としては、先達の背中の大きさと遠さをしみじみと感じてしまったりしたりしなかったりとかそんな気分にもなったりしたわけでゴニョゴニョ。
 以下、若干引っかかった場所。
 まず引っかかったというのとも違いますが、これだけ、取材に応じた先生方の「マスコミに関する言及」に、否定的なモノが皆無だというのは、ちょっと驚きでした。もちろん、チクチクと棘が見え隠れする部分がないというわけではないのですが、WHO 進藤先生の意見と筆者の意見がとくに印象的だった感じ。今回のパンデミック (H1N1) 2009 に限らず、「専門家」(とカッコをつけたのは、この言葉の使い方にも気をつけろ、という本書の指摘を意識しつつかつ敢えて総称してみることで「誰を指しているのか」をボカしたいからでありますが)からはマスコミについて否定的な言説を聞くことのほうが多いという印象があるのですが、結局のところ「包丁」みたいなモンと考えて、「専門家」の側がちゃんと使いこなすべきなんだろうなぁ、とかそんなふうに思ったり。不用意に刃の側ひっつかんで痛がったり、ピチガイが振り回してる姿だけ見て否定するのは違うんだろう、とかそんな感じで。
 もう一点、「専門家」の間での云うことの不一致が見えてしまうと「専門家」全体に対する信頼が損なわれる、ってな指摘には若干の疑問を感じました。が、しかし、実際なそうなんだろうかもしれん。オレはだいたい感じ方がズレてるっていうか、云ってるコトが一枚岩な連中って、偏ってるか、結託して騙そうとしてるかのどっちかにしか見えないという病癖がありまして……。なので、云ってるコトが必ずしも一致していないぐらいでないと怖くて逃げ出したくなったりもするわけなんですが。この点については、「真理へと至る会話」「合意へと至る会話」「終わらない対話」あたりの意識を、対話の内側だけでなく対話を見ているギャラリーの側に対してもちゃんと示していく、みたいなところを目指すんかなぁ、とかそんなふうな理解をしたっつーことでひとつ。
 まぁ、こんくらいでしょうか。
 いやぁホント面白かったです。
 おまけ。一番仰天したのは、児童の予防接種をやめたら老人がバタバタ死んだというデータがある、ってなくだり。うっわぁー、ホントだとしたらすげぇ納得できるわぁ。でも、うーん……うーん……みたいな。いやぁ、「実験のできないこと」についての科学って実に興味深いですな。
2010/01/18 (Mon)
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