深度 、急速潜行~
[日々のいとまに]090221 ~黒のトイフェル(下)~
▼「黒のトイフェル」下巻読了。
 とりあえず公衆浴場でひと息。いや、猛烈なディストピア具合がここで多少緩和されたかなぁということで。当然、極めて限られた人々だけが享受できる快適さではあるわけでしょうが、相当下々まで快適に暮らせるなんて、相当に時代が下ってこないと人類史においてまず存在してなかったわけですから、ま、13 世紀ならとりあえずオッケーとしといてよいのかなというところで。何しろ、上巻じゃあ相当てっぺんの人々でさえ全然快適そうには見えなかったんでなぁ。
 何故公衆浴場がそこまで快適そうに見えるかといえば、それはもう、TRPG 屋、に限らずゲーム的ファンタジーから入ってる民が「リアルな中世ヨーロッパってどうよ」とかいうふうにゲーム的ファンタジアン向けの書物に手を出すと、まず打ちのめされるのが「入浴習慣のなさ」と「排泄物は道路に捨てる」あたりなわけであり、後者はまぁ避けて通れないアレなわけですが、前者の印象が「おや?」となったわけでした。即座に「ペストの流行っていつごろだっけ?」と調べ出したのは普通の反応だよねぇ? いやまぁ、「普通はペストの流行した時期ぐらい知ってるだろ!」とか云われたら、うぐぅの音も出ませんが。(1347 年頃以降だそうです)
 ま、結局、魂のほうは神様の野郎に縛られてて、その意味での閉塞感は変わらないわけではありますけど。
 後半の展開はやはり、前半の演説ラッシュから打って変わってアクションラッシュで、Yrr だとえーとえーと……なんですな、アクションラッシュは、デキはイイはイイんですが、正直クドいというか、やっぱ「コトが起こる前に」ひたすら会話劇を積み上げてた部分に比べると盛り上がりを欠く感じかなぁ、と、そういう感じがないでもなかったんですが、今回は量的にも過不足のない見事な仕上がり。質的にも、人間同士の泥臭いアクションがイイ感じで、全開で盛り上がりました。視野の限られた人間が、それぞれの立場で、それぞれに最善を尽くした結果、いろいろとしっちゃかめっちゃかになってく展開も(最善を尽くす前、立場を決する時点で非常にアレっちゃアレなのですが、それは小説の描き始める日時以前にすでに決してしまってるので仕方なし)なかなか好み。見下ろしちゃうと「愚か」な行動だったりもするんですが、それぞれの立場ではみんながんばってるよな、と。(ここが、それぞれの立場に感情移入してみてもやっぱり「愚か」だと受けつけにくかったりします、オレは。たとえば Yrr だと、軍関係者は結構そういう感じがなくもなかったかな?)
 クライマックスの、駆け上る我らが赤毛のスプリンターと、非一神教徒の現代人の感覚からすればむしろ「いちばんマトモじゃん?」という感じでさえある敵役と、ヤスパー先生の、言葉と腕力をフル稼働する勝負の緊迫感とかは絶品。
 満喫つかまつりました。
 ヤコプの頭の後半の冴え渡り方は、「こうでなくてはな」という感じで、ま、定番っちゃ定番ですが、しびれます。ヤスパーは、ハンセン病に対する疫学的な素地さえあるんじゃないかみたいな明晰さとか、ちょっと超人すぎる感じもないではないですが、メンタル面ではパーフェクトというわけでもなく、そのあたりのバランスが素敵な知識人として魅力的です。超越しすぎないことで生まれる視線の暖かさ、みたいなところとか。ウルクハートのバックグラウンドについては、まぁ、見慣れた、というのはどうかとは思いますが、定番的といえばこれも定番的なアレですが、そこからたどり着いた境地がなかなかイイ感じの EX パラディンでカッケェ。リヒモディス女史は、下巻ではいまいち盛り上がらない印象ではありましたが、ウルクハートがらみの場面とかではなかなかイイ味を出してたなという感触。ふむ、クライマックスとかとくにですが、ヤコプが暗殺阻止のために探して駆け回るのが「狙撃ポイント」なこととか、ヤスパーやウルクハートがもうちょっと時代が下がったほうがしっくりきそうな視点やテクニック(ヤスパーが心を病んだ別の元クルセに情報収集に行くくだりなど)を持ってたりといったあたりは、TRPG 屋から見たゲームっぽさもちょっとあったかな。それが濃すぎるとアレですが、ちょうどイイ按配の濃度だったんじゃないかなと。キャラスペック的な超人ではなく、思考レベルで(ちょっとだけ)頭抜けた人々、という感じがうまく出てた、という感触。
 面白かった。
 トータルバランスでは Yrr よりもしかしたらデキいいんじゃね?
 Yrr はそのバランスとかもう気にしないぜ、全力で行く! みたいな突っ走り方(とくに学者連中の)が素晴らしく、どっちがよりトータルで「すっげぇ!」と脱帽したかっつーと、ま、Yrr ではありますが、大満足な今作でありました。トイフェルのほうが、ひとには薦めやすいかな。
 いやまぁでも、Yrr の序盤の手探り期とかはやっぱり並ぶものを挙げようもないくらいに絶品なんだよなー。
 うん、両方読め!
 Yrr の、全部の謎が解けた後の片付けについてはまぁガマン。いや、悪くない。決して悪くないと思うんだけど、ちょっと長すぎかなってのと、序盤の手探り期の熱さに比べると、ちょっとやっぱり……とかそういう程度なんですけどね。
 次のシェッツィング作品はいつかなー。どれかなー。そんなに多作な人ではない(って見るからに調べてる資料の量が量なので当然だと思いますが)のですが、まだ数編はありそうなので、ちょう期待するぜ。
2009/02/21 (Sat)
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